講義レポート
第3期レクチャーレポート no.4 2018.09.26
講義
プロジェクトのふるまい学―ふるまいから生まれるプロジェクト―
塚本由晴 氏(建築家/アトリエ・ワン/東京工業大学大学院教授)
アーツプロジェクトスクール第3期、第4回目の講義は、建築家の塚本由晴さんにお越しいただき「プロジェクトのふるまい学―ふるまいから生まれるプロジェクト―」をテーマにお話を伺いました。アトリエ・ワンの活動を始め、建築、都市研究、展覧会への出展、執筆など幅広く活動される塚本さんですが、そこに一貫するテーマが、ご自身が提唱された概念でもある「ふるまい学(Behaviorology)」です。
ふるまい学とは?
講義は少し捉えにくい「ふるまい」というものを知るところから始まりました。それは、人や自然だけでなく都市(建築)にもあるそう。塚本さんは、概念ありきの”正しい建築”ではなく、「使う人たちの暮らしが建物の特徴となって現れてくる」ような”あるがままの建築“を読み解く方法として、ふるまいを捉えます。
講義前半では、塚本さんが過去に取り組まれた書籍から、ふるまいを通じて浮かび上がる建築や都市のおもわぬ構造を見ていきました。そこにはどんな歴史背景や環境の圧力が関わっているのか? どんな連続性の中に位置づけられるのか? ふるまいを丁寧に観察することで、その反復の中に一定のリズムが立ち現れ、日常の風景が立体的にぐっと深みを増し迫ってきます。
「ふるまいを捉える方法として観察と定着がありますが、それを続けていくと考えるべきことが定まってきます。そして現実に起こっている現象に自分たちがどう介入していくかの筋道が出来てきます。これがプロジェクトといえるでしょう。」(塚本さん)
講義中盤では、塚本さんが過去に取り組まれた、ふるまい学の視点からつくられたプロジェクトを見ていきました。
「すでに街にあり、皆が楽しんでいるものを変形することで、新しいふるまいを生んでいくことができます。ふるまいは人の中に内蔵しているだけでなく、外的資源と生身の身体が出会うことで、それを楽しもう、使いこなそうとして出来上がっていくものです。」(塚本さん)
上海ビエンナーレに出品した「Furnicycle」は、上海の路上観察から生まれたプロジェクト
事例を見ながら、ふるまい学という視点からどう地域を読み解いていくのかを学んでいく
産業社会的連関と民族社会的連関のハイブリッド
後半では、コモンズの再構築をキーワードに話していただきました。
東日本大震災の際、復興支援先の漁村で人々の逞しさに衝撃を受け、「自分で資源にアクセスすることもできない(用意された物を買うことしかできない)自分たちの脆弱さに気付いた」という塚本さん。近年は、産業社会における地域の人々と資源の間にある障壁を取り除くべく、脱産業的なプロジェクトに取り組まれています。
また、産業社会における都市と農山漁村の建築のふるまいの違いについても取り上げ、「農村の大きな民家は、その地域で繰り返し人々が試行錯誤する中で出来上がってきた形式。その場所に順応し、その土地ならではのものになる過程にはオーサーシップはなく、”連関”が主役です。そういった意味で建築がもう一度、連関が主役といえる所にどこまで戻れるかはひとつのチャレンジだと思います。産業社会的連関から民族社会的連関へ、どにように矢印を反転できるかが21世紀の建築のテーマになると考えています」ともおっしゃっていました。
自然を資源化するスキルの高い人を「資源的人」とネーミングし「資源的人の有段者になりたい」という塚本さん
2018年に手がけた「栗源第一薪炭供給所」。里山の間伐材を薪に加工し地域に循環する。(写真:アトリエ・ワン公式HPより)
約2時間という短い時間で、これまでの活動から導き出された思考をぎゅっと凝縮し、惜しみなく話してくださいました。講義に参加したスクール生たちは示唆に富むお話から、立体的で奥行きのあるプロジェクトを目指すためのかけがえのないヒントを得たようです。
[参考文献]
「メイド・イン・トーキョー」
「ペット・アーキテクチャー・ガイドブック」
「アトリエ・ワン コモナリティーズ――ふるまいの生産」
[講師プロフィール]
塚本由晴(つかもと・よしはる)
1965年神奈川生まれ。貝島桃代と1992年にアトリエ・ワンの活動を始め、建築、公共空間、家具の設計、フィールドサーベイ、教育、美術展への出展、展覧会キュレーション、執筆など幅広い活動を展開。ふるまい学を提唱し、建築を産業の側から人々や地域に引き戻そうとしている。
Topic3回やってみる
塚本さんがこれまでに取り組んだプロジェクトは、小さな実験を繰り返すことで定着し形になっていったそう。「1度始めたら3回は必ずやってみます。そうすると三角測量にようにその間の空間ができ、そこに物語(ナラティブ)が生まれます。」
その空間はときに批評空間となったり、背景や関心を共有するものになるといいます。そして「それは歴史的なものを召喚することができる。過去に起こったこと、すでに出来ていることを呼び込み、それと一緒に議論するようなことができる。それを私は建築ならではの面白さだなと思って楽しんでいます。」(塚本さん)
実施概要
- 日時2018年9月26日(水)
- 講師塚本由晴 氏(建築家/アトリエ・ワン/東京工業大学大学院教授)
- 参加人数