アーツプロジェクト5つの価値基準

ARTS PROJECT SCHOOLは
“個”をつなぎ、
“全体”に挑む
5つの力を手に入れる創造的な場所

アーツプロジェクトは、まちや社会の歪んだバランスを創造的なプロジェクトでチューニングしアップデートする文化プログラムといえます。また、「私(個)」と「まち(全体)」を創発的に刺激し、社会関係資本を構築し、革新的なクリエイティブプロセスを生み出すことでもあります。

まちや社会のバランスを考えるとき、また、アーツプロジェクトを動かすとき、「美感力(気づく力)」「人間力(ビジョンを描く力)」「しくみ力(計画する力)」「環境力(つながりを生む力)」「自律力(運営する力)」という、5つの力が価値基準になります。

今、自分がいる場所(全体)は、「美感力」「人間力」「しくみ力」「環境力」「自律力」のうち、何が欠けているのか? どうすればそれを補えるのか? その問いかけは、プロジェクトそのものをつくる人(個)にも「気づく力」「ビジョンを描く力」「計画する力」「つながりを生む力」「運営する力」として向けられます。
ARTS PROJECT SCHOOLでは、実践的にプロジェクトを学ぶプロセスのなかで、“個"や“全体"に欠けている力と向き合うことになります。そして、歪んだバランスを補うために“個"をつなぐチームをつくり、5つの力を補完しながら“全体"に挑んでいきます。

ARTS PROJECT SCHOOL 統括ディレクター
中村政人

ビジョンを描く力とは?

プロジェクトのはじまりであり、
すべての価値基準になるもの

ARTS PROJECT SCHOOL ディレクター 中村政人(アーティスト)

“ビジョン”は未来を描く力。方向性を定め、構想を練りあげていく力とも言えます。そして「私(個)」と「まち(全体)」との関係性を示すものであり、プロジェクトに必要な「気づく力」「計画する力」「つながりを生む力」「運営する力」すべてに影響します。また、プロジェクトのはじまりであり、完成像でもあります。
自分の能力を感じながら、時間も場所も自由に行き来し、“個”と“全体”がつながるときにビジョンが生まれます。逆に、“個”と“全体”の関係性が不明確な状態では、ビジョンを描くことはできません。
また、より良きビジョンであるためには「純粋」「切実」「逸脱」の3つが必要です。これは「アート」を成立させる要素とも言えます。純粋になれる対象なのか? 切実にやりたいことなのか? 逸脱しているものなのか? を問わなくてはなりません。
ARTS PROJECT SCHOOLでは、“個”と“全体”の関係性を意識せざるを得ません。全体に対するリサーチと分析、マネジメントは、揺るぎないビジョンが核心的に共有されてこそ生き生きと動き出します。ビジョンを描き続けるトレーニングは、自分とまちの未来を描くことに重なります。

1963年秋田県大館市生まれ。アーティスト。3331 Arts Chiyoda統括ディレクター。東京藝術大学絵画科教授。1993年、銀座でのゲリラ展「THE GINBURART」から多くのアートプロジェクトを企画・制作。1997年よりアーティストイニシアティブコマンドN主宰。富山県氷見市、秋田県大館市等、地域再生型アート・プロジェクトを多数展開。2010年よりアーティスト主導、民設民営のアートセンター「3331 Arts Chiyoda」を立ち上げ、現在UP TOKYOエリアでの「東京ビエンナーレ2020」を準備中。

3331 Arts Chiyodaにはギャラリーやオフィスが入居し、文化的活動の拠点に

1999年、2000年、2002年に東京・秋葉原の電気街で開催された展覧会「秋葉原TV」

計画する力とは?

“気づき”は一瞬のひらめきではなく
継続することで成熟されるもの

ARTS PROJECT SCHOOL 講師 日比野克彦(アーティスト)

アーツプロジェクトとは、ひとりではなく、複数の自分以外の他者と交わりながら展開していくものが数多くあるかと思います。そのなかで多くの“気づき”が生まれ、それが枝葉となり、次のプロジェクトに展開していくこともあります。
“気づく”ことはひらめきではなく、時間がかかるもの。過去にさかのぼらないと自覚できません。プロジェクトにおいても、継続する覚悟がないと“気づき”は熟成されず、身につかず、なかなか自覚できません。
“気づき”のポイントは3回あると思っています。1回目は気づいていることに“気づかない”ことのほうが多い。数日経ったあとにずっと引っかかっているもの、忘れないものがあることに、心が働くのが2回目。そして3回目は、自分の外に出して確かめたくなるとき。自分の考えを言葉にしたり、人に話そうとするとき、本当に見えてくるものがあると思います。
ARTS PROJECT SCHOOLが、あなたにとって、1回目の気づきの場になるか? 2回目の気づきの場になるか? それとも3回目かはスクールで出会う人次第ですね。互いに刺激しあえる場になることを楽しみにしています。

1958年岐阜市生まれ。東京藝術大学美術学部長、先端芸術表現科教授。岐阜県美術館長、日本サッカー協会社会貢献委員会委員長、東京都芸術文化評議会 専門委員、公益財団法人 日本交通文化協会理事を務める。2003年よりスタートした朝顔の育成を通して、人と人・人と地域・地域と地域のコミュニケーションを促す「明後日朝顔プロジェクト」は16年目を迎え、現在29地域が参加している。

全国の明後日朝顔プロジェクト参加地域の関係者 が一堂に集まる「明後日朝顔全国会議」

“違い”を超えた出会いで表現を生み出すアートプ ロジェクト「TURN」 撮影:伊藤友二(Courtesy of Arts Council Tokyo)

気づく力とは?

構造と形態を行き来する
思考のトレーニングから生まれるもの

ARTS PROJECT SCHOOL 講師 山崎 亮(コミュニティデザイナー)

美感力(気づく力)や環境力(つながりを生む力)の高い、アート関係のプロジェクトを好む人たちは、“ビジネスモデル”を好まない傾向があるように思います。しかし、「こう感じたからやってみた」というものでは協力者を募るのが難しいし、経済的な持続性を担保しにくい。
アーツプロジェクトを実践するためには、社会にインパクトを与え、持続しているプロジェクトが持つ仕組みやモデルを常に頭の裏側で描きながら、さまざまな事例を学ぶ必要があります。面白いと思ったこと、うまくいっていると感じたものは、どんな構造で成立しているのか? 正解かどうかは問題ではなく、自分のなかで仮説(モデル)をつくり続けることが大切。それが一定数ストックされると、ようやく自分が取り組むプロジェクトのモデルを生み出せるようになります。
ただ、ビジネスモデルを重視しすぎると、アーツプロジェクトの力が失われてしまいます。ビジネスモデルでは解決できないところに挑むことができるのがアーツプロジェクトなので、「やりたい!」と思うプロジェクトをビジネスモデル化することが重要だと思います。ARTS PROJECT SCHOOLでは、常に背後にある仕組みやモデルをイメージする訓練をしていきます。

1973年愛知県生まれ。studio-L代表。コミュニティデザイナー。社会福祉士。建築・ランドスケープ設計事務所を経て、2005年にstudio-Lを設立。地域の課題を地域に住む人たちが解決するためのコミュニティデザインに携わる。まちづくりのワークショップ、住民参加型の総合計画づくり、市民参加型のパークマネジメントなどに関するプロジェクトが多い。

日常生活の障壁をシェアし、解決策を考え実践する 「O!MOROLIFE(オモロライフ)プロジェクト」@横浜市

“未来の暮らしを見に行こう!”をテーマに広島県内19自 治体で実施した住民発案による博覧会イベント@広島県

つながりを生む力とは?

すべての人や、予想外の出来事を
「ようこそ」と受け入れるマインド

ARTS PROJECT SCHOOL 講師 田中元子(株式会社グランドレベル代表取締役社長/建築コミュニケーター)

“つながり”は目的ではなく、手段であり、結果だと思います。「つながらなきゃいけない」「つながることがいいことだ」という、コミュニティのお花畑から脱しないと、本当のコミュニティは生まれない。昨今のコミュニティブームのようなものに対して「本当なの?」と、ぼんやりとでも本質的な問いを持ってほしいと思います。なぜそれが必要なのか? ARTS PROJECT SCHOOLに参加する方々には、本当にそれを設計したり、仕込んだりすることはできるのか?ということに向き合ってもらいたいですね。
つながりを生むヒントになるものがあるとすれば、大阪のおばちゃんが鞄のなかから取り出す“アメちゃん”。あれは自分のためでも、特定の人のためでもなく、“今日会うかもしれない誰かのため”にアメを忍ばせているわけです。アメひとつで小さな公共性が生まれる。そこには予想外の出来事や、想定外の“誰か”を積極的に受け入れるマインドが大切なのかもしれません。すべての人に対して「ようこそ」というものであること。そして予想外のことが起きることが、成功であり、結果的につながりを生むことになるのだと思います。

1975年茨城県生まれ。株式会社グランドレベル代表取締役、建築コミュニケーター。2004年、クリエイティブユニット「mosaki」を共同設立し、主に建築関係のメディアづくりを行う。2014年より、ダイレクトにまちや都市に関わるプロジェクトに重点をシフトさせ、都市の遊休地でキャンプを行う「アーバンキャンプ」や、個人がフリーで振る舞う「パーソナル屋台」ワークショップを全国に展開。2016年、「1階づくりはまちづくり」をモットーとした株式会社グランドレベルを設立。2018年、墨田区に「まちの家事室」付きの現代版喫茶店「喫茶ランドリー」をオープン。

喫茶スペースの奥に、ランドリーやアイロン・ミシン 等を備えた「まちの家事室」がある「喫茶ランドリー」

ワークショップを行いながら公開空地や公園の新 しい活用方法として展開する「パーソナル屋台」

運営する力とは?

試行錯誤するためにも必要な
「自律性」「立ち戻る礎」「誰のため」

ARTS PROJECT SCHOOL 講師 遠山正道(株式会社スマイルズ代表取締役社長)

プロジェクトの運営には、自律性、立ち戻れる礎、そして“誰のためにやるのか?”を考える必要があります。立ち行かない現実にぶつかり、方針を変える勇気も大切ですが、正しい判断を下すためにも、これらが軸になります。
プロジェクトを自律させるためには、ビジネスで当たり前のことをきちんとやることが大切。また、実際に進めていくと、うまくいかないことのほうが多く「何のためにやっているのか?」と立ち戻る場面が何度もあります。地元の人やお客さまなど、環境も思惑も違う立場の人たちと関わるときに、“自分たちが何を大切にしているのか?”を自覚していないと、どんどんブレていきます。
個人的には“誰かのために”を掲げている話には懐疑的です。“誰かのために”と言うと、見返りが欲しくなるもの。それより、きちんと自分たちの理由を持ったほうが誠実な対応ができると思います。
私は、“アートはトリガー”だと思っています。今あるものを組み合わせたり、なぞったりするのではなく、アートをきっかけに仕組みや考え方そのものを更新し、世の中に打ち込む。ARTS PROJECT SCHOOLのみなさんにも、トリガーになるようなことを実践してほしいと思います。

1962年東京都生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、1985年三菱商事株式会社入社。2000年株式会社スマイルズを設立、代表取締役社長に就任。現在、「Soup Stock Tokyo」のほか、ネクタイ専門店「giraffe」、セレクトリサイクルショップ「PASS THE BATON」、ファミリーレストラン「100本のスプーン」、コンテンポラリーフード&リカー「PAVILION」、海苔弁専門店「刷毛じょうゆ 海苔弁山登り」を展開。「生活価値の拡充」を企業理念に掲げ、既成概念や業界の枠にとらわれず、現代の新しい生活の在り方を提案している。

“食べるスープの専門店”として1999年に一号店 をオープンした「Soup Stock Tokyo」

「瀬戸内国際芸術祭2016」に出品したアート作品 「檸檬ホテル」は、1日1組の宿泊が可能