講義レポート

第3期レクチャーレポート no.2 2018.09.12

講義

芸術際のディレクション/経営/運営―地方における芸術祭の在り方とその持続性―

山出淳也 氏(NPO法人 BEPPU PROJECT 代表理事/アーティスト)

世界有数の温泉地・大分県別府市を活動拠点として、別府現代芸術フェスティバル「混浴温泉世界」「in BEPPU」など数々のアートプロジェクトを実施し、地域に根付いた数多くの芸術文化振興事業を実行してきたアートNPO、BEPPU PROJECT。今回はその発起人であり代表の山出淳也さんを招き、立ち上げから13年間にわたり展開してきたアートと社会を接続する活動を振り返りながら、芸術祭のディレクションとその経営・運営について学びました。

できないことをできないと言えるか

BEPPU PROJECTの事業内容は、学校や福祉施設へのアウトリーチ、移住・定住に向けた環境整備、情報発信、商品ブランディング、産業促進など多岐に渡ります。その活動は一見ばらばらにも見えますが、全て芸術祭という大きな目標に向かうための時間軸のなかで考えられているそう。

「私たちは、縦割りの社会、そしてアートと市民をつなぐ“つなぎ手”として横串を刺す役割、クリエイティブなハブの役割を担っています。それは、単にアートイベントをやりたいわけではなく、この地域・社会に少しでも楽しいことが生まれる可能性を守っていきたいからなんです。」(山出さん)

そんな想いで地域に根付き、これまでに1,000ものプロジェクトを動かしてきた山出さんは「地域でやっていくには、できないことをできないと言えるかが重要」と言い切ります。

価値の評価基準をつくり次のステップへ

そもそも海外で作家活動をしていた山出さんが単身で別府にやって来たきっかけは、幼い頃に憧れを抱いた別府の街を舞台に「アーティストたちが作り出す作品を鑑賞者として見てみたい」というシンプルな想いから。BEPPU PROJECTの代表的な活動である別府現代芸術フェスティバル「混浴温泉世界」はそのビジョンを実現したプロジェクトです。2009年から2015年まで3回に渡り開催されたこの芸術祭は、一般的な評価基準とされる鑑賞者数とは異なる評価指数を打ち出し、その後、個展形式の芸術祭「in BEPPU」という形に発展していきました。

「もちろんアートなので測れない価値はたくさんありますが、分析や調査を継続していくといろいろなことが見えてきます。マーケティングでの対応が難しいアートプロジェクトおいて、アーティストが社会と接続し、その思考が社会のイノベーションにつながるためには、評価の基準と目標設定が大切です。」(山出さん)

講義終盤では、自分たちの活動を価値化するために実際に活用されている「in BEPPU」の”ビジョンシート”と”評価シート”も見ていきました。

地域で継続的に活動を続けていくには、ビジョンを持ち、変化のプロセスを考え、その変化を実際に起こしていくことが必要になります。今回の講義では、さらにその先、それらをどうつなげ継続させていくのか? そしてそれらの活動をどのように未来へ紡いでいくかといった重要なポイントまでじっくりとお話していただきました。

今回の講義内容は、10月に発行されたばかりの書籍「BEPPU PROJECT 2005-2018」で詳しく紹介されています。今回話しきれなかった内容も含め、是非書籍で理解を深めてください。

 

※プロジェクトの写真はBEPPU PROJECT公式サイト、各公式SNSより引用

[講師プロフィール]
山出淳也(やまいで・じゅんや)
2005年BEPPU PROJECT設立。別府現代芸術フェスティバル「混浴温泉世界」(2009~15)、「in BEPPU」(2016~)等、 文化を軸に地域性を活かした活動を展開。平成20年度 芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞(芸術振興部門)、文化庁 文化政策部会 文化審議会委員。

Topicネーミングの役割

質疑応答では、インパクトのある「混浴温泉世界」というプロジェクト名について質問があがりました。「『混浴温泉世界』はディレクターの芹沢高志さんが決めたタイトルだったのですが、企業などに資金集めに行く際は冷や汗……」。一方でプロジェクトの思想を説明せざるを得ない状況を与えられたことで、相手の共感を得ることができたそう。「もしこれが『別府芸術祭』だったら、想いを説明する機会も得られなかったんじゃないかと思います。このタイトルによってお題を与えられたなと思っています。」(山出さん)

実施概要

  • 日時2018年9月12日(水)
  • 講師山出淳也 氏(NPO法人 BEPPU PROJECT 代表理事/アーティスト)
  • 参加人数