講義レポート
第2期レクチャーレポート no.09 2017.11.08
講義
東京2020 オリンピック・パラリンピック文化プログラムについて
太下 義之 氏(三菱UFJ リサーチ&コンサルティング株式会社 芸術文化政策センター主席研究員/ センター長)
プロジェクトスクール@3331 第2期、第9回目の講義は、三菱UFJ リサーチ&コンサルティング 芸術文化政策センター主席研究員/センター長の太下義之さんによる「東京2020オリンピック・パラリンピック文化プログラムについて」。
2020年に東京でオリンピックとパラリンピックが開催されることは周知の事実ですが、実は文化プログラムはその前からすでに動き出しており、自分もその担い手になることができるということは、あまり知られていないのかもしれません。ロンドンをはじめとする過去の大会を例に、文化プログラムを取り巻く現状について詳しいお話を伺いました。
そもそも「文化プログラム」とは・・・?
オリンピックは一般的には『スポーツの祭典』とされていますが、『文化の祭典』でもあり、オリンピックの開催にあたっては、必ず文化プログラムを実施することがIOC(国際オリンピック委員会)で定められています。「ロンドンオリンピック・パラリンピック(以下、五輪)では177,717件(実は117,717件が正しく、その転記ミス)が実施されたという公式発表があり、これを受けて日本は全国各地で200,000件の実施を目指しているそうです。
「ロンドン五輪では“once in a life time(一生に一度きり)” がキャッチコピーとなり、普段では到底なし得ないような様々な文化プログラムが実施されました。例えば、世界遺産のストーンヘンジを『火庭』に見立て、直火を使用する企画(“The Fire Garden at Stonehenge”)、車椅子に乗った女性が水中でダンスを行うなど障がいのある方による芸術表現プログラム(“Unlimited”)が挙げられます。日本は文化庁が主導し、ロンドンを超える数値目標を掲げました。全国各地にその取り組みを広げるべく、文化庁と観光庁が提携を結んだり、全国の562 市町村(H29.11.24 数値更新)が地域活性化を目的に首長連合を作ったり、文化庁の補助で地方に文化芸術支援の専門組織であるアーツカウンシルが設立されるなど、文化プログラムを背景とした様々な動きが起こっているんです。」(太下さん)
ロンドン五輪“Artist taking the leads”
「ロンドン五輪の文化プログラムの中で興味深い事例として挙げられるの“Artist taking the leads” というアーティストがリーダーシップをとるプログラムです。イギリス全土を12 地域に分けて公募をし、それぞれの地域でたくさんのプログラムが生まれました。中でもヨークシャー地域の“Leeds Canvas” は五輪開催まで1人の芸術監督を招聘し、地域内でアーティスト主導で色々な企画を実施するというもの。地域を代表する8つの文化組織とのパートナーシップを組み、実施した企画は好評を博しました。しかし、全てのリーディングをアーティストに委ねるのではなく、スケジュールや予算管理、各所との連携など、専門的なスタッフをおいた方がいいという反省もありました。色々な人の参画によって事業を効率的に推進することは、考えてみれば当たり前の話なのですが、東京五輪の時にはこのモデルから学べることもあるのではないかと思います。」(太下さん)
限られたリソースでどれだけ取り組みを広げられるか
「国が実施できる文化プログラムには限りがあります。そのため、地方公共団体や民間の取り組みが拡大の要なのです。ここに補助金以外の形でどんなサポートができるかは、行政の知恵のひねりどころと言えるでしょう。また、広める、という意味ではロゴマークの使用の問題もあります。公認プログラムとしてのIOCからの認定がでないうちは、正式なロゴマークを使うことができません。そこで、ロンドンではロゴマークとは別にinspireマークなるものが作られ、東京もそれに倣ったものが作られています。」(太下さん)
「リソースをどのように捉え直すかも、一つのイシューです。『東京文化資源会議』という組織体では、東京、特に北東部にある谷根千・上野・本郷・湯島・御茶ノ水・秋葉原・神保町・神田のそれぞれ突出した文化資源として再評価することができるのではないか、という議論がなされています。そもそも、先に述べた地域版アーツカウンシルの設立や自治体間連携の動き、文化資源の再評価の議論などは、五輪を機に始まったものです。これらが結実し、一定の成果を生み出すことができれば、レガシーの創出に繋がったと言えるのかもしれません。」(太下さん)
Topic東京2020 オリンピック・パラリンピックの文化プログラムは、 すでにスタートを切っている
「リオデジャネイロ五輪の閉幕セレモニーで、次期開催都市を代表して小池都知事が旗を受け取った瞬間から、すでに東京五輪の文化プログラムは始まっています。私たちの“Once in a life time”はすでに動いているんですね。しかし、数(件数)をとにかく稼げばいいかというと、そうではありません。オリンピック・パラリンピッ
クが終わった後にどんな未来を描くのか-過去から現在、現在から未来へ継承していくレガシーを築くことが重要です。」(太下さん)
作り上げる文化プログラムが「レガシー」になるかどうかは、未来の価値判断にかかっているという点において、非常に難易度が高く思えてしまいます。一方で今の私たちが伝統・受け継いできたものとして仰いでいるものの中には、生活レベルの小さな積み重ねの上に成り立っているものもあります。“Once in a life time”を自分たちはどう捉え、どんな形にするのか、考えるきっかけをいただきました。
実施概要
- 日時2017年11月8日(水)
- 講師太下 義之 氏(三菱UFJ リサーチ&コンサルティング株式会社 芸術文化政策センター主席研究員/ センター長)
- 参加人数18 名