講義レポート
第3期レクチャーレポート no.12 2018.12.12
講義
法律や権利について―アート/ソーシャル・プロジェクトと法律―
桶田大介 氏(弁護士/牛鳴坂法律事務所)
アーツプロジェクトスクール第3期、12回目は弁護士の桶田大介さんを迎え、「法律や権利について―アート/ソーシャル・プロジェクトと法律―」をテーマに講義を行っていただきました。文化庁や経済産業省のアニメやマンガ関連事業に従事し、立法や行政におけるアニメやマンガなどに関わる種々の取り組みに携わる桶田さん。アーツプロジェクトスクール講師として第1期から3度目となるこの日は、主に著作権についてお話を伺い、ご自身が携わった作品や最近話題になったニュースのお話を例に上げながら、プロジェクト推進に必要な法律や契約の基本についてわかりやすく教えていただきました。
著作権は、表現し形にした時点で自動的に発生するもの
法律や権利を理解する上で、著作権・著作物など、正しい言葉の意味を理解することはとても大切です。講義序盤では、そもそも著作権とは何なのか? という基本的な部分から、著作権関連の言葉の意味、そして特徴や成り立ちについても理解を深めていきました。
「著作権の大きな特徴は、表現として形にした時点で自動的に発生し、一度発生した権利は誰に対してでも行使できるという点です。著作権はクリエイターにとって武器にもなりますが、管理者にとっては自然に定まるもののため、明確なラインがなく見えにくいものでもあります。」(桶田さん)
プロジェクトを推進する上で著作権を守り侵害しないために、大きなお金が動く大規模なプロジェクトでは初期段階から契約関係を整備しておくことが必要になる一方、本スクールでのような小規模なプロジェクトでは「初期段階から合意内容を記録しておくことが最も大切で、それに尽きる」と桶田さんはいいます。それは「法律は事実を積み重ねた上に法を当てはめる」という基本的な考えのもと、当事者同士の合意・定めが最優先とされるから。プロジェクトを進めるにあたっても、外部とのやり取り、イベントでの記録動画など、相手が存在する身近なところで念頭に置いておくべきポイントといえます。
弁護・法務面で多岐に活動する桶田さん。アニメーター協会へのプロボノ参加や、新国立新美術館の日本マンガ・アニメの海外展開への参画なども。
会場からの質問を織り交ぜて講義は進んだ。第3期では作家活動をしているスクール生も多く作り手側からの質問も多数上がった。
プロジェクトで著作物を利用する際のポイントは?
縛りがある一方で、表現自体の可能性を狭めないためにも公平な利用とのバランスが求められる著作権法。著作権があるものすべてに承諾が必要ということではなく、「著作権と承諾」についてのお話では、こまかく定めされているその制限規定の事例を見ながら、プロジェクト推進に必要なポイントを掻い摘みながら説明してくださいました。
中でも頭に置いておきたいのは、承諾が必要な場合にはリスクを減らすためにも「著作者を特定すること」がなによりも大切ということ。
「生みの親でもある著作者には、譲り渡せない著作者人格権があります。だからすべての出発点は著作者であり、そこを追っていくと誰に権利があるのかが特定できることになります。」(桶田さん)
その点からは「ネット上にある素材は著作者が不明確なため、安易に利用するとややこしくなることも」との注意喚起も。オリジナルをつくるか、著作者が明確なものを選び事前に承諾を得ることが最良といえます。
また、そのマイナーさや、ややこしさゆえに、日本国内において著作権の専門家は少なく、知識が浅い弁護士も多いそう。プロジェクトを進めていく上で著作権に関する具体的な法律相談をしたい場合は、「今回の講義内容を念頭におきつつ、著作権専門の相談サービスを利用するのもおすすめ」とのアドバイスもいただきました。
アーツプロジェクトに有用な商標権の活用についてのお話も。
「海外での作家活動における注意点は?」「プロジェクトで地上絵を書くが…」などスクール生からの具体的な質問にも丁寧に答えてくださった桶田さん。
ややこしい分野だからこそ、専門家の助けを請いながらうまく取り入れ活用していきたい法律・法務の視点。プロジェクト推進する上で知っておきたい基本知識を学びながら、自分たちの周りにも存在していることを身近に感じることができました。
[講師プロフィール]
桶田大介(おけだ・だいすけ)
2005年弁護士登録。2010年、ロンドン大学クイーン・メアリー校LL.M終了。2008年より日本アニメーター・演出協会の活動にプロボノで参加。文化庁や経済産業省のアニメやマンガ関連事業に従事。立法や行政におけるアニメやマンガ等に関わる種々の取り組みに携わる。
Topicこれから増える「孤児的著作物」について
最近のトピックスとしてお話いただいたのが、著作者不明の「孤児的著作物(オーファンワークス)」についてです。「誰が書いたかわからない有名な小説や、撮影者がわからない著名な写真などの使用は、日本では一定の合理的範囲で権利者を探し、それでも見つからない場合は文化庁の制度を使い使用することができます。権利保護の期間が来年には70年に伸び、これからの時代は孤児的著作物が大量に増えるでしょう。それをどう管理していくのかが今議論されています。」(桶田さん)
実施概要
- 日時2018年12月12日(水)
- 講師桶田大介 氏(弁護士/牛鳴坂法律事務所)
- 参加人数