講義レポート
第3期レクチャーレポート no.13 2018.12.19
講義
プロジェクトとは何のために何をするのか ―様々なまちづくりの実践事例から学ぶ―
清水義次 氏(都市・地域再生プロデューサー)
アーツプロジェクトスクール第3期、最終回となる講義は、都市・地域再生プロデューサーの清水義次さんを講師に「プロジェクトとは何のために何をするのか ―様々なまちづくりの実践事例から―」をテーマに行っていただきました。全国各地の都市・地域の再生に現場の第一線で携わってこられた清水さん。リノベーションまちづくりなどの事例に基づく実践的な立場から、プロジェクト化のポイントや実践的プロセスやメソッド、そしてプロジェクト成功・継続の秘訣など様々にお話いただきました。
志とソロバンを併せ持つプロジェクトリーダーに
講義は「プロジェクトが『何にために何をするのか』仮説をもつことが重要です。それを書き出し自分やチームの仲間で共有し、プロジェクトを始めて迷ったら読み返してみましょう。この行為が非常に大切です。」というメッセージからスタートしました。
そもそも、都市地域再生プロデュースの出発地点には、都市地域”経営”の課題解決というミッションがあり、とくにプロジェクト継続にはこの“経営”の視点がとても大切と清水さんはいいます。
「志だけではプロジェクトは継続しません。まちや人に対する愛情や公共心、それとしたたかなソロバン(経営力)。適正な利益を上げ続けるだけの営業の力を身に付けることがとても重要です。まずは数字に置き換えて、お金でものを見る癖をつけると、物事の優先順位がつけやすくなります。」(清水さん)
さらにプロジェクトで仮説を立てる時には「その背景にあるものを正確に把握・理解しておくべき」とのアドバイスも。スライドを交えて、現在のまちづくりの背景にある、破綻する地域経営の実態を数字で見ていきました。いま多くの都市に共通して多数の地域経営課題が存在すること、突きつけられたその現実に「なんとなく知ってはいたが、数字で見ることで実感がない点を突かれた」というスクール生も。高度成長期の”成長する時代“から”縮小・衰退の時代”への移行をリアルに認識するとともに、過去のやり方を辞め都市経営をテーマにアプローチし課題解決をはかることの重要性を理解しました。
このような背景の中、地域に関わるプロジェクトリーダーとして私達は「何のために、そして何をすべきなのか?」さらに深めていきます。
清水さんの活きた実践論に「何度も見返したい講義だった」とスクール生たち
「プロジェクトをやる際は何のために何をするのかを強く意識してほしい。そして本質的なことをテーマにしてほしい。」(清水さん)
小さいことから実践し、あきらめずに改善を続けよう
「縮退時代の中で今あるものを活かし、まちで暮らす人々が今よりも幸せな生活が実現できるようにしていこう。」この想いを出発点に生まれたのが、清水さんが実践・提唱する「リノベーションまちづくり」です。2003年に東京・神田から始まったこのプロジェクトは、北九州市で体系化・ノウハウ化し、いまや全国60都市に広がり各地で成果を上げています。リノベーションといっても建物を改築することではなく、まちを「再生させること」を実践しています。講義中盤では、大小2つのタイプの事例を通じ、リノベーションまちづくりの”目からウロコ“の実態を見ていきました。
具体的なプロセスを作るための4つのステップのお話では、「要はこのプロセスが重要です。何を学んだらいいかという時、表面だけを学んでもだめ。プロセスの作り方が一番の肝です。自分の『何のために何をするか』に向かって、最初に小さく作り上げながら、だんだん大きく展開していく。自然に進むようそのプロセスを組めるかが勝負だと思います。結果だけを見て真似するのではなく、同時並行するプロセスを作ることが求められます。」と、目先のことだけではなく全体を見て組み立て戦略を立てていくプロデューサー的視点も教えていただきました。
さらに「全体をやろうという意識は捨てるべき」とも指摘します。ビジョンをもとに”伏線的思考“で小さなプロジェクトを複数仕込み、その小さい点が相互作用し展開する。その小さい点(エンジンとなる創発が起きる場)をつくることの重要性を学びました。
※1 リノベーションスクール:リノベーションまちづくりを担う人材の学びの場
※2 家守会社:自己組織化するまちづくり会社のこと。
地域に眠る潜在資源を見つけるには「研ぎ澄まされた目利きになれるかが勝負。それは自身の体験で決まる」(清水さん)
リノベーションまちづくりでは、今あるものを活かしまちの課題を同時解決していく
講義後半では、進め方のポイントや堅実・安全なプロジェクト化のコツも指南していただきました。中には「仮説を作ったらまずは小さくても実行してみることが肝心。そして反応を見て改善を続ける。飽きずに成功するまで続ける。それがPJ成功の秘訣です。」とアドバイスも。また、「ひとりよりも2~3人のチームをつくるべし」というヒントには、まさにいまスクールの中で取り組んでいるチームワークの意味を再確認しました。
最後には「まちづくり以外でも、この仕組みにより自立継続するまちづくりが他ジャンルで可能です。チャンスや山のようにある!『すぐにできることから始めよう』を合言葉に、楽しみながらポジティブにプロジェクトを続けてみましょう。」とエールをいただきました。
第3期、これまでのレクチャーをひとつに結んでいくような総括した内容と、厳しくも暖かい言葉に心が熱くなった2時間でした。
[参考書籍]
「リノベーションまちづくり 不動産事業でまちを再生する方法」
「民間主導・行政支援の公民連携の教科書」
[講師プロフィール]
清水義次(しみず・よしつぐ)
3331 Arts Chiyoda代表、株式会社アフタヌーンソサエティ代表取締役。都市生活者の潜在意識の変化に根ざした都市・地域再生プロデュースを行う。なかでも現代版家守(やもり)業の実践と啓蒙に注力し、リノベーションまちづくりに取り組む。
Topic民間型公共施設からコミュニケーションが生まれる
リノベーションまちづくりの一例である岩手県紫波町のオガールプロジェクトでは、10.7hの雪捨て場と呼ばれていたエリアを出発点に、魅力的で持続可能に発展するまちづくりが実践されています。エリア内にある広場・図書館・産直所・居酒屋などの施設は、コミュニケーションが生まれる民間型公共施設として開かれ、相互に影響し合い賑わいを生んでいます。講義では、他では見たことのない面白い取り組みも多数紹介していただきました。
「そこで生まれるコミュニケーションがまちの最大の魅力であり生産です」(清水さん)
既成概念にとらわれない豊かな視点・発想がまちに新しい価値と魅力を生んでいます
実施概要
- 日時2018年12月19日(水)
- 講師清水義次 氏(都市・地域再生プロデューサー)
- 参加人数