講義レポート

第3期レクチャーレポート no.5 2018.10.17

講義

地域の文化的価値に関する考察―次世代へ向けた地域文化形成について―

紫牟田伸子 氏(編集家/プロジェクトエディター/デザインプロデューサー)

アーツプロジェクトスクール第3期、第5回目の講義は、編集家の紫牟田伸子さんを迎え、「地域の文化的価値に関する考察―次世代へ向けた地域文化形成について―」をテーマに行っていただきました。
“ものごとの編集”を軸に、地域や企業をフィールドに活躍されている紫牟田さんですが、2006年にはシビックプライド(※)研究会を立ち上げ、人々がイキイキと生きるための都市と市民のデザインについて研究されています。今回はこれまでのご自身の活動やケーススタディとして研究された国内外の様々な事例と研究成果を通じ、地域の文化的価値について考えていきました。また、編集家ならではのものの見方や思考法も多数紹介していただきました。

 ※シビックプライド=市民が都市に対して持つ愛着や誇り。19世紀のイギリスで広がった概念で、郷土愛とは異なり自分が地域に関わり地域を良くしていこうという自負心を指す。シビックプライドは住民や地域団体が自ずと持つものなので、それ自体をデザインすることはできない。国内では近年街づくりや地域活性化などの業界で注目を集めている。

視野を広げる編集的思考

美術出版社からキャリアをスタートされ、日本デザインセンターへ移籍後から地域に関するお仕事に携わるようになったという紫牟田さん。氏が名乗る肩書は、編集家以外にプロジェクトエディター・デザインディレクター・プロデューサー・ジャーナリストなど多数です。それは「受け取る側にどう受け取ってほしいかを考えた結果、肩書にとらわれない働き方をするようになった」という理由からだそう。

出版社勤務時代、編集という仕事に関わるうちに「編集スキルとは雑誌や映像を編集することではなく、むしろ編集的に思考することなのでは?」と気付いたという紫牟田さんが現在目指しているのは「社会に適応するデザイン」。デザインしたものが地域や社会にどうしたら作用するのか? 「それを考えることは編集的」といいます。

「広告のようにメッセージを削ぎ落とし、凝縮していく広告は”強い編集”、一方で街づくりに向いているのは、多くの人の意見や考えをぼんやりと拾うような”弱い編集”といえます。」(紫牟田さん)

また、編集的に思考するということを「目の前に見えていることがすべてだと思わないこと」とも言い表します。「課題に向かいすぎると課題をなんとかしようといじくりまわすけれど、課題ではないところから見ることが大事。」(紫牟田さん)この言葉には多くのスクール生が頷いていました。

人の多様な関わりからシビックエコノミーが成り立つ

講義中盤では、シビックプライドのもと地域コミュニティを活性化した事例から、デザインの本質やプロジェクト主の体の変化や関係性について見ていきました。プロジェクトの主体をどう作るかというお話では、市民による小さな経済活動である「シビックエコノミー」という概念のもと、人との関わりの作り方についてこう言及されました。

「自分が主体的に動くということもあるし、主体的に動こうとした人に対し何かしら関わってその人を主体的にしてあげるということもできる。プロボノ的に応援をしたり、様々な関わり方があります。」(紫牟田さん)

事例を見ていくと、活動の中心となる人だけではないオープンなコミュニティを何らかの形で幾重にも作っていった方が効果が高いということが理解できます。

最後は、「理想の都市とは可能性を秘めたもの」という言葉を紹介し講義は終了しました。

「アートやさまざまなデザインプロジェクトはその可能性を見せてくれるでしょう。それによって私たちは“この街”というものに意識が高まっていくし、それは生きてゆくということに大きく影響を与えていくでしょう。」(紫牟田さん)

街の一員としてシビックプライドを育み、人々の嬉しい気持ちや想いが循環していく、そんなプロジェクトの在り方とはどんなものでしょうか? そして自分たちがこれから実行しようとしているプロジェクトが社会に与える影響とは?

約1週間前に京都での合宿を終えたばかりのスクール生たちは、そこでの体験を講義に重ね、今回のテーマをより深く自分たちの中に落とし込むことができたようです。

[参考文献]
シビッププライド
シビックプライド2
日本のシビックエコノミー

[講師プロフィール]
紫牟田伸子(しむた・のぶこ)
美術出版社、日本デザインセンターを経て、2011年に独立。“ものごとの編集”を軸に地域や企業の商品開発、ブランディング、コミュニケーション戦略などに携わる。主な著書に『シビックエコノミー:私たちが小さな経済を生み出す方法』(フィルムアート社)など多数。

Topicエディターシップを持つ

今回、編集的な思考法のひとつとして紹介していだいたのが「エディターシップ」です。それは簡単に表すと「人にやらせる能力」のことで、プロジェクトをつくる際にも欠かせない要素だと紫牟田さんはいいます。
「エディターシップは、人に頼んだ時に、その人の能力を引き出して整合性をつけていく能力です。地域づくりや人に何かをやってもらうことは、一方的に指示を出すような会社的なやり方では絶対にできないものです。エディターシップ的な考え方、編集する態度や行動は、そんなときに有効です。」(紫牟田さん)

実施概要

  • 日時2018年10月17日(水)
  • 講師紫牟田伸子 氏(編集家/プロジェクトエディター/デザインプロデューサー)
  • 参加人数