講義レポート

第3期レクチャーレポート no.11 2018.12.05

講義 / 概論

アーツプロジェクトの批評について ―これからのアーツプロジェクトを語るために―

福住廉 氏(美術評論家)

アーツプロジェクトスクール第3期、11回目は美術評論家の福住廉さんを迎え、「アーツプロジェクトの批評について ―これからのアーツプロジェクトを語るために―」をテーマに講義を行っていただきました。アーツプロジェクトを批評する言語が未成熟であるという問題提起をスタート地点として、①職業としての批評 ②アーツプロジェクトを運営していく上での批評性、という2つの視点からお話を伺い、アーツプロジェクトに相応しい批評言語、批評的視点について考察していきました。

批評はプロジェクトを未来へとつなげるツール

講義は、現在よりも成熟していたという1950年代の批評を振り返りながら、批評の役割を知るところから始まりました。過去の雑誌や新聞などの批評を例に、「このような資料があるかないかでは歴史の見え方がだいぶ違います。プロジェクトを未来へ伝えるためにも、今の芸術祭の肯定的なものも否定的なものも含めて、できるだけすべてをきちんと文字に残す必要がある。成熟した発信をしていくことは不可欠です。」と福住さんは指摘します。

続いて、今の芸術祭の批評言語がなぜ未成熟と言われるのか? 「これまでの批評の方法論が通用しなくなっている」ことに、その原因を見ていきました。
「原因のひとつが作品概念の変化によって批評家に限界が生まれること。美術館やギャラリーでは結果(作品)だけを見ればよかったのですが、芸術祭はプロセスそのものが作品で、そこを共有しないとまっとうな批評ができません。」(福住さん)
さらに、美術館・ギャラリーに比べて評価軸が確立されていないことも大きな原因だそう。(※詳しくはTOPICへ)
前半のまとめでは、こうした原因を解決するべく、「プロジェクトの初期段階から戦略的に評論家を巻き込むこと」そして「内部のスタッフが自分たちのプロジェクトを批評的に捉え直す視点とスキルを持つこと」という2つの考え方を具体的に学んでいきました。

批評的視点が新たな流れをつくる

後半では、プロジェクトに内在する批評性という視点から、これまでの美術の流れを断ち切って生まれた新たな流れとして「人間と物質 第10回日本国際美術展(1970年)」と「大地の芸術祭(2000年〜)」の2つを例に、それぞれの特徴や企画者のねらいを見つつ、アーツプロジェクトを運営する上で持つべき批評的視点について考察していきました。
「ものをつくるときに単に従来のものを鵜呑みにして受け入れるだけでなく、そこからどう新しいものを生み出していくのか。先人が生んだものを反復するだけでなく、自分がそれをどう捉え直し、どんな新しい方向に展開していくことができるか? それを考えることが批評であり、皆さんがこれからそれぞれの現場でアーツプロジェクトをやっていく際に必要になってくる視点だと思います。」(福住さん)

講義最後には、福住さんが批評性を捉え直して企画した「越後妻有シルバーアート」展のお話も。それまで受け入れる側・ボランティアとして参加する側だった地域の高齢者たちを表現者として捉え直したというお話に、見えているものに疑いを持ち更新していくという批評的姿勢を学びました。

多くの資料を見ながら、批評を通じ過去と現在の時間軸を行き来した2時間。アーツプロジェクトを続ける中での批評の重要性を知り、言語にとどまらない批評という行為の面白さを発見することができました。とくに、プロジェクトに関わる各々が批評的視点とスキルを持つことはこれからますます必要とされるはず。プロジェクトのコンセプトを強固にしていくという面からも重視したいポイントです。

[講師プロフィール]
福住廉(ふくずみ・れん)
著書に『今日の限界芸術』(BankART 1929)他多数。『共同通信』で毎月展評を連載する一方、『今日の限界芸術百選』(まつだい「農舞台」/2015)など展覧会キュレーションも手がける。東京藝術大学大学院、女子美術大学、多摩美術大学、横浜市立大学非常勤講師。

Topic芸術祭の評価軸:質と量をデータ化する

芸術祭の評価軸は、来場者数など数値化できるもののほか、アンケートなど「量と質」で表わされるものがあるそう。例えば、瀬戸内芸術際2016の地域住民へのアンケート結果では「地域に対する思いや見方が変わったか?」という質問に対し、YESと回答した人は半数以下。地域活性化の成功例として社会的に大きく評価されているように見える一方、データ化し数字を冷静に捉えることで、その評価が一側面でしかないことがわかります。このように、地域を舞台にした芸術祭では、”質と量“も重要な評価対象に。ただし、まだ適切に拾い上げる方法論が確立されていないのが現状です。

実施概要

  • 日時2018年12月5日(水)
  • 講師福住廉 氏(美術評論家)
  • 参加人数