講義レポート

第3期レクチャーレポート no.10 2018.11.28

講義

プロジェクトにおける会計―価値あるプロジェクトを推進するために―

山内真理 氏(公認会計士/税理士)

アーツプロジェクトスクール第3期、10回目は公認会計士・税理士の山内真理さんを迎え、「プロジェクトにおける会計 ―価値あるプロジェクトを推進するために―」をテーマに講義を行っていただきました。文化芸術やクリエイティブ領域を専門としたご自身の会計事務所のほか、有志による非営利団体(Arts and Law/アーツ・アンド・ロー)の共同代表としてもアーティストやクリエイターのサポートを行う山内さん。講義途中にグループワークを挟みつつ、会計の本質やアーツプロジェクトへの活用方法など、プロジェクトリーダーが持つべきリテラシーと会計的思考について学びました。

会計はプロジェクトの課題を見える化し推進するための加速装置

面倒くさい事務作業、専門家だけが把握している数字など、矮小なものに捉えられがちな”会計“。しかし、「それでは視点として狭すぎる」と山内さんは指摘します。

「プロジェクトを仕掛け育むということは、社会の関係性の中で責任を引き受けるということでもあります。自分自身のプロジェクトには思い入れがあり、客観的分析や正確な認識・対応が遅れがちです。会計は、プロジェクトの価値や評価といった客観的に見えにくいものに対し、その経済取引の構造に着目することでプロジェクトの経済的アーカイブ=”今を知るためのカルテ”を提供し課題を可視化する、いわばプロジェクトを推進するための道具といえます。」(山内さん)

会計は創造した価値や社会的支持、分配の構造、マネジメントの課題まで、現実を鏡のように映し出します。プロジェクトが健全で理想的な状態になるための行動計画を組み立てるには、この会計の本質を捉えた会計的思考が不可欠です。

会計は未来のデザイン・ツールでもある

自分たちのプロジェクトがなんとなく上手く行っていると感じる時、それは本当に上手く行っているのか? 逆に上手く行っていない場合、原因は何なのか?
講義中盤では、ケーススタディーとして実際に損益計算書などの数字を比較分析し、そこからイメージできる事業の状況や課題を共有していきました。
「決算書は自分で作れる必要はありませんが、分析的に読めるようになると事業の分析、改善に多いに役立ちます。」(山内さん)

講義の終盤では、アーツプロジェクトにも活かせる知識として、プロジェクトの未来を構築していく時に会計がどのように役立つのかというお話も伺い、スタート〜飛躍期までそれぞれのプロジェクト成長段階における会計的思考をイメージしていきました。
「会計は戦略を未来に予定すべき行動(計画)に落とし込み、それを経済的に積み上げ、現実的な実現可能性を探り、必要なアクションにつなげるための手段=未来への地図を具現化するとツールともいえます。」(山内さん)

対立的に捉えられられがちなクリエイティブとビジネスですが、プロジェクトでモノやサービスや文化を作りそれらを社会に届け広げるには、適切な経営管理は必要不可欠です。約2時間の講義を通じ、単なる数字管理やHow Toではない、プロジェクトが社会との関係性を育みながら価値のあるものになるための要素として、会計的思考を学ぶことができました。
その必要性を実感するとともに「会計を面白いと思えた」「世界が開けた」と、新たな視点を獲得したスクール生たち。立案中のプロジェクトにますます磨きがかかります。

[講師プロフィール]
山内真理(やまうち・まり)
公認会計士山内真理事務所代表。有限責任監査法人トーマツにて法定監査やIPO支援等に従事した後、2011年にアートやカルチャーを専門領域とする会計事務所を設立。共著に『クリエイターの渡世術 20組が語るやりたいの叶え方』(ワークスコーポレーション)など。

Topicコミュニケーションツールとしての会計

「会計のルールは世界共通です。そして、個人・企業・団体など、どんな事業体でも構造や規模を比較することができます。また、過去・現在・未来を比較することで、業績や財務状況の推移を比較したりもすることも可能。こうした特性を生かして内外に情報を提供し、顧客や従業員、投資者との間の利害調整を行うこともできるのです。これらが、会計が言語(コミュニケーションツール)とも言われる所以です。」(山内さん)

実施概要

  • 日時2018年11月28日(水)
  • 講師山内真理 氏(公認会計士/税理士)
  • 参加人数