講義レポート

第3期レクチャーレポート no.7 2018.10.31

講義

アートの視点を通じた起業と経営―プロジェクト運営に本当に必要なもの―

遠山正道 氏(株式会社スマイルズ 代表取締役社長)

本日の講師は株式会社スマイルズ代表取締役社長の遠山正道氏。「アートの視点を通じた起業と経営―プロジェクト運営に本当に必要なもの―」をテーマに講義を行っていただきました。さまざまな物事に対して主体性を持つということはアートやビジネスにおいて欠かせないキーワードではないでしょうか。講義は「自分ごと」を発見することから始まりました。

仕事も人生もプロジェクトの積み重ね

「仕事も人生もプロジェクトの積み重ね。プロジェクトはすべて”自分ごと“」。講義はこんなメッセージからスタートしました。

遠山さんが代表を務める株式会社スマイルズ(以下、スマイルズ)は、食べるスープの専門店「Soup Stock Tokyo」やネクタイ専門店「giraffe」、「刷毛じょうゆ 海苔弁山登り」など、さまざまな事業を展開するだけでなく、近年ではスマイルズがアーティストとして「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」や「瀬戸内国際芸術祭」に作品を出品するという取組みも行っています。
ビジネスのフィールドで生きながら、アートの発想と豊かさを存分に活かしている遠山さんにとって主体性とは? 一見相反するアートとビジネスの共通点から話してくださいました。

立ち戻る場所はあるか

「アートは誰にも頼まれない。上司はいない。自分で考えて動かなければいけない。アートはビジネスではないが、ビジネスはアートに似ている。」という遠山さん。事業経営もアートも「子供の眼差し」と「大人の都合」のバランスが重要とおっしゃいます。

「ビジネスは大変なことだらけで、立ち戻る瞬間がたくさんあります。だからこそ自分自身の根拠が大事。立ち戻る所がないと、理由が外に行ってしまいます。」(遠山さん)

また、遠山さんにとってアートとは「みえないトリガーであり、きっかけを思い出させてくれるもの」でもあるそう。「世の中で具現化されているのは10%で、残りの90%に価値が眠っている。アートはそこに目を向けるきっかけを与えてくれます。」(遠山さん)

そして「その残りの90%に点を打ってみた」というのが、今、遠山さんが精力的に取り組んでいる「The Chain Museum」。アートの次のあり方をつくるというミッションを掲げた大注目のプロジェクトです。現在進行中のこのプロジェクトについても最新の話題を提供してくださいました。

何を大事にし、何を発するのか

講義中盤では、30代の頃に実行し”自分ごとのプロジェクト”の原体験となった自身の絵の個展のお話、そして「Soup Stock Tokyo」が生まれる瞬間から、その展開に至るまでのプロセスも伺いました。

中でも「Soup Stock Tokyo」誕生の瞬間のお話は印象的で、それはある時、遠山さんの頭の中にふと浮かんだ「女性がスープをすすっているシーン」がきっかけだったそう。遠山さんは、このときの体験を「大事なものと出会った感じ」と言い表します。遠山さんは、そこに浮かぶ世界の価値観や関係性を物語形式の企画書にまとめ、伝えました。当時のその企画書には、今まさに「Soup Stock Tokyo」で実現されている「スープに共感して広がる関係性や可能性」が描かれていたというから驚きです。

「これがもしスープではなくラーメンだったら? 方向性はまったく違っていたでしょう。何を大事にするのか、何を発しているかはそれほど大事です。」(遠山さん)

自分ごとは自分の丈からスタートする

講義終盤では、経済から文化価値の時代へと切り替わる現代で大事にしていくべき視点について、いくつかのプロジェクトを事例に話してくださいました。

「プロジェクトは生身の“あったらいいな”から始まっていきます。また、小さいほどユニークなことができ、遠くまで届く。身の回りのこと、仕事、小さなプロジェクトから積み重ねていく。プロトタイプには一人がちょうどいいのです。」(遠山さん)

成功例だけでなく、その裏側にある苦労や苦悩についても伺うと同時に、それを上回るワクワク感に包まれた2時間。自分ごとを楽しみながら実行すること、そして情熱と直感が自分を動かすというプロジェクト運営の肝を学んだ講義でした。

[講師プロフィール]
遠山正道(とおやま・まさみち)
2000年株式会社スマイルズを設立、代表取締役社長に就任。“生活価値の拡充”を企業理念に掲げ、現代の新しい生活の在り方を提案し、「Soup Stock Tokyo」「giraffe」「PASS THE BATON」「100本のスプーン」「PAVILION」「刷毛じょうゆ 海苔弁山登り」等を展開。

Topic自分の中に理由はあるのか

自分ごととして始めるプロジェクトのワクワク感を存分に感じた講義でしたが、質疑応答では、「新しいことをするときの判断のポイントや大変なことは?」という質問に対し、「仕事は6割失敗する。それでもやりたいか。自分の中に理由はあるのか。」(遠山さん)
という実業家としてのリアルな経験から積み重ねられた重みのある言葉も。シンプルでありながらも力強いメッセージを受け取りました。

実施概要

  • 日時2018年10月31日(水)
  • 講師遠山正道 氏(株式会社スマイルズ 代表取締役社長)
  • 参加人数