講義レポート

第3期レクチャーレポート no.6 2018.10.25

講義

地域文化とアートのキュレーション―美術館の内と外をつなぐ事例から学ぶ―

鷲田めるろ 氏(キュレーター)

鷲田さんは、地域に開いた美術館として注目される金沢21世紀美術館(2004年開館)にキュレーターとして立ち上げから関わり15年ほど活動され、2018年からはフリーランスとしてヴェネチア・ビエンナーレ日本館やあいちトリエンナーレなどのキュレーションを行っています。今回の講義では、これまでにキュレーターとして地域に向き合ってきた経験から、その課題を整理して話していただきました。

マクロとミクロの視点を持つ

まず講義のはじめに鷲田さんが今日伝えたいこととして挙げたのは
1:キュレーションの概念を狭く捉えないこと
2:地域を美術館や行政と対立的に捉えないこと
という2点。近年、地域でのアートプロジェクトは、美術館から離れて自由にいろいろなことを試せる場であり、鑑賞者は“風景や食も同時に楽しめるもの”という側面からのみ捉えがちですが、「もっと大きな枠組みの中に位置づけていく必要がある」と鷲田さんは指摘します。

「美術館、行政、NPOなどいろいろなチャンネルを使いながら地域に関わってほしいと思います。10〜20年前に比べアートプロジェクトが増えていますが、その中で残っていくのは、もう一段階マクロな話と繋がっているプロジェクトなのではないでしょうか。『この地域でのアートプロジェクトの可能性はあるか?』ということを見極めていく上で、視野を広く持って欲しいと思います。」(鷲田さん)

講義序盤は上記のポイントを踏まえ、金沢の都市計画に密接に関わっているという金沢21世紀美術館の事例を通じ、キュレーションの延長上にある美術館のミッションや都市の背景、産業政策、国家政策などとの関連性について話していただきました。

国の機関が主催するヴェネチア・ビエンナーレ日本館の展示では、「日本」というものをいかに見せていけるかを考えてキュレーションを行ったそう。プロジェクトを動かしていく上で「さまざまなプレイヤーを据えながらどう関係づけるかを考えていってほしい。」と鷲田さんはいいます。
また、地域というのが「誰に見られるか」によってその範囲を変えるということも事例を通して教えていただきました。

街の特性を読み込み、ストーリーを共有する

後半では来年開催される「あいちトリエンナーレ2019」についても触れ、産業との関わりという側面から、芸術祭のテーマや場所・作家選びについても具体的なプロセスを含めて分かりやすく話していただきました。展示ひとつをとっても、深い洞察で場所性を捉え結びついたストーリーがそこに込められていることが分かります。

「会場探しにしても、街の特性を読み込んで会場を選んでいくべきだと思っています。大きい文脈に乗せ、繋げ、何らかのストーリーをつくり、それに皆を巻き込んで展覧会を作っていく。その時、地域のことだけを見るのではなく、都市計画や経済・産業、世界の中の日本など、そういったことを意識しながら考えていく必要があります。」(鷲田さん)
そのようなストーリーは、チーム内での現状認識や街の人を巻き込む際にも役立ってくるというアドバイスも。

社会に横串を刺すプロジェクトリーダーの育成を目指すアーツプロジェクトスクールですが、今回の講義では、美術館の内と外をつなぐ数々の事例を通じ、まさに行政やNPOといった縦割りの業界を繋ぎ、そこから見出した共通のミッションをアートに落とし込んでいくという現場のプロセスを垣間見ることができました。

[参考リンク]
金沢21世紀美術館
あいちトリエンナーレ2019

[講師プロフィール]
鷲田めるろ(わしだ・めるろ)
1999年から2018年3月まで金沢21世紀美術館キュレーター。「あいちトリエンナーレ 2019」キュレーター。「瀬戸内国際芸術祭2019」アーティスト選考アドバイザリーボード委員。的|芸術中心(北京)学術委員。金沢大学、金沢美術工芸大学非常勤講師。

Topicアートと教育

「本来アートの教育は価値のある美術を見分けるものとされますが、今回紹介したのは価値というより問いを投げかけるものです。受け手がその問いを受け止めどう考えるかが教育と重なります。見ることで考える。作品は問いを発していて、それを受け止める。その関係を促進することがアートにおける教育といえるでしょう。また、鑑賞者同士がその学びをお互いに交換する場づくりなどもアートにおける教育のできることだと思います。」

実施概要

  • 日時2018年10月25日(木)
  • 講師鷲田めるろ 氏(キュレーター)
  • 参加人数