講義レポート

第3期レクチャーレポート no.3 2018.09.19

講義

アーツプロジェクト史概論―アーツプロジェクトの歴史を紐解く―

加治屋健司 氏(美術史家/東京大学大学院総合文化研究科准教授)

アーツプロジェクトスクール第3回目の講義。今回は美術史家の加治屋健司さんを講師に迎え、アーツプロジェクトの歴史的な文脈や言葉、そこから生まれた特徴や課題について解説していただきました。プロジェクトを実施する上での歴史や言説との関係性をどう考察していけばよいのか? ヒントを得る貴重な機会となりました。

史学として見えてくるもの

大学赴任中の2003年に「広島アートプロジェクト」に関わったことから、当時はあまり議論がなかったアーツプロジェクトの歴史的背景に興味を持ち始めたという加治屋さん。

「現在盛んなアートプロジェクトや芸術際の背景にはいろいろな試行錯誤がありました。今行われている芸術祭の形態というのも決して普遍のものでなく、これまでも変わってきたし、これからも変わっていくものであるということを是非知ってもらいたいと思います。」(加治屋さん)

講義はこんなメッセージから始まりました。そもそもアーツプロジェトには歴史といえるほどの事例があるのだろうか? と思う人も少なくないと思いますが、講義では、50年代から80年代のアーツプロジェクトが生まれる起因となった背景、そしてアーツプロジェクトが誕生したとされる90年代、そして2000年代の展開を一連の流れとして見ていきました。日本で現在の芸術祭のようなアートプロジェクトが生まれたのは90年代といわれていますが、現在のように社会との関係性が大きく取り上げられるようになったのは2000年代から。現在の芸術祭の定番要素ともいえる、地域との関係性、ボランティアの参加、そして助成金の活用なども、今日まで行われてきたプロジェクトの蓄積の結果であるということが、全体の流れを捉えることで見えてきます。

日本のアーツプロジェクトは社会性が弱い?

講義では海外の事例も多く見ていきました。アメリカやヨーロッパのアーツプロジェクトでは、社会へ制度批判的な要素が大きい一方で、日本のアーツプロジェクトは社会性が弱いと言われます。それはなぜなのか? その点についても史学の視点から解説してくださいました。

加治屋さんは、「背景を見ていくと、アメリカやヨーロッパでは制度としての脱美術館の動きがあった一方で、日本では空間に対する関心から始まっています。ほかの事例に関しても、社会の問題と向き合うという要素が弱く、全体がそこに関心が向かなかった。」と指摘します。

それは国民性ともいえるのか? スクール生たちはこの指摘からさまざまな気付きを得たようです。プロジェクトをつくり動かしていく者として、アートの歴史や時代背景だけでなく国民性さえも含め考察していく。そこに今後のアートプロジェクトの独自性や課題が潜んでいるのかもしれません。

最後には、アーツプロジェクトに対する肯定と否定の文献が紹介され、それに対し自分自身はどう思うのか? という問いが投げかけられて講義は終了しました。

史学というアカデミックな内容を、スライドを使って分かりやすく解説していただいた2時間。アーツプロジェクトを時間軸で捉え課題や特徴を追っていくことで、今日にアーツプロジェクトを行う意義を再確認しました。

[参考文献]
アーツプロジェクトの現在を知るための参考として
・美術手帖 2017.7「アートフェスティバルを楽しもう!」
・ソトコト 2018年9月号「地域のアートと音楽フェスティバルガイド」

[講師プロフィール]
加治屋健司(かじや・けんじ)
1971年生まれ。東京大学教養学部卒業。ニューヨーク大学大学院美術研究所博士課程修了。PhD(美術史)。日本美術オーラル・ヒストリー・アーカイヴ代表。著書に『アンフォルム化するモダニズム カラーフィールド絵画と20世紀アメリカ文化』(東京大学出版会、近刊)などがある。

Topicアーカイブの重要性

「美術史では、動員数・鑑賞者数に関わりなく、重要な作品は歴史に残っていきます」と加治屋さんはいいます。そこで重要になるのがアーカイブ。「きちんと記録しデータ化しておけば後世で研究ができます。その点でも、専門家を交えてアーカイブすることが望ましいです。」(加治屋さん)
アーツプロジェクトは運営団体が消滅してしまうと、記録自体もなくなってしまうというのが弱点。プロセスを含めたアーカイブ化は今後の大きな課題といえます。

実施概要

  • 日時2018年9月19日(水)
  • 講師加治屋健司 氏(美術史家/東京大学大学院総合文化研究科准教授)
  • 参加人数