講義レポート

第3期レクチャーレポート no.1 2018.09.05

講義

アーツプロジェクト概論 ー個と全体の創発性をつくり出す5つの力ー

中村 政人 氏(アーティスト/APS統括)

アーツプロジェクトスクール(以下APS)第3期、1回目の講義は、APS統括でアーティストの中村政人さんを迎え、これからはじまるスクールに先立ち、APSのねらいとポイントを理解するための講義を行っていただきました。APS立案の背景を知るとともに、中村さんが継続してきた様々なプロジェクト事例を通じ、キーワードとなる「個と全体」そして「5つの力」という総合的な考え方や、プロジェクトを進める上で重要になる「地域因子」や「身体的な文化資本」という考え方についても理解を深めていきました。

価値とは何か?を問い、行き着いた「五角形」=5つの価値基準

APSのキービジュアル(五角形の鉛筆の断面が連なる写真)にもなっている「五角形」は5つの力のバランス(価値基準)を表すものですが、これは、中村さんの作家活動で常にあった「価値とはなにか?」という問いから行き着いたものだと言います。

「作家活動でゼロからものをつくり、それが作品になると、価値として評価され、販売される形態にすれば値段がつく一方、値段がつかないけど大事な価値もつくってきました。そういった中で価値というものを考える際に、漠然と経済的とか文化的と考えると、どうもしっくりこない。そこで、5つの方向性をもって考えてみました。僕らは人間なので、想像する力・ビジョンを描く力がある。もちろんビジョンが生まれる前には気付きがあり、それは非常に重要です。では、その気付きから生まれたビジョンを実現するにはどんな計画をもち、どんな運営をすればそこに価値が生まれてくるのか。そのためには、僕らがいる環境そのものにつながりを持ちながら、背景にある社会関係をみながらバランスをとっていく必要があります。気づきを形にするとき、通常の考え方から一歩「逸脱(※)」し、流れの中に価値というものを与えていかないと、いつも見ている平々凡々としているものの中に留まってしまうのではないか。だから価値とは何か考えるということは、この5つの力を自分の中に問うことでもあるのです。APSでは、この考え方から価値基準・概念を捉えています。」(中村さん)

※逸脱:中村さんがここでいう「逸脱」とは、一歩前に踏み出した瞬間や、充実した今まで見えなかったようなフレームのような価値観が見えてくる瞬間が訪れてくるときのこと。

関係性を生み、価値と価値のスキマを創造していく

APSでは、個人ではなくチームビルディングを重視しています。そこにはどんな狙いがあるのでしょうか?

「五角形の最小単位は個(私)ですが、一人のひとりが持っている価値のバランスは歪んでいます。仕組みをつくる力が弱いと思っている人がいるとすると、それを補うようにバランスが生まれてきたら良いですよね。でも例えばここで6人のチームができたとしても、なかなか万能にはいきません。でも必ずその隙間にヒントがあると思います。すでにあるものの間を考えることによって両者がより良く見えてきたり、新しい刺激を生み出したりすることができます。」(中村さん)

プロジェクトをつくるという意味において、自分や自分の業界だけで考えるのではなく、他につながりを持てる関係性をつくることができれば、物事は進み易くなります。社会においても、今まさに求められているのは、縦構造に横軸を刺し新たな価値を生み出していける人材。APSではそのような人材の育成を目指しています。

「地域因子」と「身体的文化資本」という考え方

次に、中村氏が取り組んできた事例を見ながら、5つの価値基準への理解を深めるとともに、プロジェクトの軸となる「地域因子」という考え方と、それが成長するプロセスを見ていきました。

「地域因子」とは、今回の講義のコアとなる考え方で、街の地域資源を構成する根源的な要素を指します。(例:秋田犬、高校生、廃校の中学校など)地域因子は、街または日本の新しい価値として文化資本となり、その地域そのものを代表するようなものに変化していく可能性もあります。

「これらのプロジェクトでは、地域因子を明確に位置づけ、その地域因子が発芽するようなプロセスをつくっています。街が魅力的・持続的に発展していくには、その地域因子の価値を分析し、成長するビジョンを描き、アクションを起こさなければなりません。発芽する前の状態から成長した姿を創造・共有することで因子の存在と可能性が見えてきます。」(中村さん)

ここでのポイントは、PDCAサイクルを通じて地域因子に対して逸脱を促す連続的な刺激を常に与えていくこと。それは、次の世代へ続く新しい流れをつくり、それをバトンタッチしていくためにも必要であると、中村さんは言います。その想いの背景には「身体的文化資本(※)」という考え方と、それを取り巻く現代社会の環境に対する危機感がありました。

「今ここで育った場合、どんな文化資本を身につけることができるでしょう? ごく普通の生活感の中で自然に身につける要素=人間力はどのような現状で、過去に比べ良くなっているでしょうか? 今、あらゆるものがクラウド化され仮想と現実の区別がつきにくい状態で、個とコミュニティ、私と私たち(=個と全体)のつながりが見えにくくなっています。大手資本が入ることで画一化され、文化的資本を与える環境そのものがどこも同じ空間形成になっている。だからこそ、いま身体的文化資本という考え方が大切だと思うのです。」(中村さん)

後半は、プロジェクトを進めるにあたっての基本知識として、アートプロジェクトにおけるジャンル・具体例や、そのモードなどを図で見ていきました。

「自分がどの位置でプロジェクトをやっていきたいのか? またはチームの設計がどこを目指しているのか? ある程度定めておく必要があります。その際も、自分に潜む身体的文化資本に気付き、自身のタイプを自覚していないと定まりにくい。では、自分に潜む身体的文化にどうやって気付くかという時、他者との関係における成立を促すAPSのプロジェクトそのものの概念が、大きく自分を引き出してくれる要素になってきます。」(中村さん)

※身体的文化資本:「文化資本」はフランスの社会学者ピエール・ブリュデューが提唱した概念で現在も広く研究されているテーマ。文化資本の形態のひとつである「身体化された形態の文化資本(ここでは身体的文化資本と記述)」は、言語の使い方、ふるまい、センスなどで、20歳ころまでに自然と身につくもとされ、お金では買えず学校教育でも身につけることができないとされる。

「明快なゴールが定まっているように思うかもしれませんが、実はそのプロセスの中にこそ可能性が秘められていて、まだまだスキマがある。そういった意味では、そのスキマに眠っている価値を、地域因子を発見するような目で通じていくと具体的に感じやすくなるし、観察を続けながら発見の喜びを通じて調査・検証し、ちょっとしたプロジェクトを実行し、それを批評、または仲間と議論しながら次の気付きに向かうことを続けるしなかい。楽しかったら続けてしまうんですよね。自分とは一体どういう存在なのかを感じつつ、プロジェクトをつくる際の流れ、プロセスを感じてほしいです。」(中村さん)

以上のほか、3331 Arts Chiyodaの立ち上げ時の企画書や事業計画書、ビジネススキームのほか、現在進行中の「東京ビエンナーレ」の運営資料なども紹介され、これからはじまる自身のプロジェクトの具体的イメージと気付きを膨らませました。

[参考文献]
コミュニュティ・アートプロジェクト ゼロダテ/絶望をエネルギーに変え、街を再生する

[参考リンク]
アフォーダンス理論

中村政人(アーティスト)
3331 Arts Chiyoda統括ディレクター。東京藝術大学絵画科教授。第49回ヴェネツィア・ビエンナーレ(2002年)日本代表。1998年よりアーティストイニシアティブコマンドN主宰。2010年にアートセンター「3331 Arts Chiyoda」を立ち上げる。

Topic気づきに、純粋に丁寧に向き合う

「個(私やチーム)に関係性が生まれてくると、それ対して補い合うバランスが生まれくる。するとその価値そのものが有機的に変化し、影響し合い出します。私はそこに新しい価値が生まれてくる刺激があるのではないかと思っています。子供の言葉が生まれてくる瞬間もしかり、なぜ人は刺激を受け思考し、それが言葉や行動になるのか? その全体はいったいどこに宿っているのか? そう考えたとき、自分という人間の価値観を育んでいくときに、私達はその刺激ひとつひとつに対し、丁寧にそれを紐解く必要があります。
APSで考えて欲しいのは、自分自身の問題として本当に感じない限りは先に進まない、ということ。気づき・対峙は自分のこととしてじゃないと生まれない。本当に自分が対峙して、ピュアにそのものに接する状況を、トレーニングとしてでもいいので作り続けてほしい。ここで一緒に学ぶ人たちは自分にできるだけ純粋に対峙し、本当に発見し気づき、その気付きを忘れないうちにメモしたり、ドローイングしたり、なんらかの形で心に刻んでおいてください。」(中村さん)

実施概要

  • 日時2018年9月5日(水)
  • 講師中村 政人 氏(アーティスト/APS統括)
  • 参加人数45名